ななつのうみの

僕の世界に、初めての。







知くんの話の中に何度も出てきた「ひらこば」という言葉から想像した人物像と実際に会った時の印象との間に、さほど相違はなかった。
ただひとつだけ意外だと感じたのは、意味もなく仲間とつるむくせに、束縛し束縛されるのを良しとしない彼の性質である。
どちらにせよ、チャラチャラしている人間は苦手だ。第一印象は最悪。上履きのかかとを踏みつける金髪の先輩とは、すれ違いざまの挨拶を除くと一度も言葉を交わしたこともなく、
しかしこれくらい距離を置いている方が穏やかに過ごせるのだと安堵する事もまた事実である。

基地のフェンスにもたれ、海を眺める彼を見かけた。ここは家への一本道であり、気付かれずに通過するのは不可能だ。
苦手な部活の先輩になんと声をかけるのが正解かと考えていると、向こうが自分に気付き、手招きした。
軽く会釈をし、歩み寄る。
となりに並んでも、彼は何も言わない。
自分から静寂を破れるほど僕は口が達者ではない。
沈黙の重みも手伝って何十秒か何分かが経過したのかが分からなくなった頃、彼が突然口を開いた。
「やー新垣だっけ」
「はい」
まさか平古場凛が自分を認識しているとは思わなかった。一度もまともに話した事もない後輩の名前を覚えているのは何故なのか。心を見透かすように「不知火からよく話は聞いてる」と言う先輩。
僕は耳を疑う。
知くんが、どうして、よりにもよって平古場先輩に。
「…僕の、どんな話ですか」
冷や汗を握り込んで尋ねた。すると、
「それは秘密の約束さあ」
なんて。
そうですか。ぽつりと呟いたが、頭上を通った輸送機の爆音にかき消され自分の耳にも届かなかった。






即興二次小説さんに何ヶ月も前に投稿したものの加筆修正です。
お題、不思議な人。必須要素、アメリカ。制限時間1時間。
凛垣大好きです。
2013/10/23